REPORTS & archives
一覧へ戻るキックオフシンポジウム レポート 前半「《巻き込み力》と《ごちゃごちゃ》。アートと建築から考える協働」
CP Lab.では、2026年9月5日、10月から始まる講座プログラム「Creative Track」に先駆け、「間に間に── 文化芸術から考える協働の実践」と題したキックオフシンポジウムを京都芸術センターで開催しました。
シンポジウムのテーマは「創造と協働」。工芸、建築、メディア芸術の3分野から1名ずつゲストを迎え、第一部ではゲストトーク、第二部ではゲストとモデレーターによるクロストークを行いました。異なる専門性や価値観を持つ人と共につくる面白さや可能性、その中で生じる葛藤や困難についてそれぞれの実践をもとに語り合いました。本レポートでは、3時間にわたるシンポジウムの前半部分から、山城知佳子、門脇耕三によるゲストトークを中心にお届けします。永田宙郷によるゲストトークと、クロストークはレポート後半で公開します。
日時:2026年9月5日(土)14:30~17:30
場所:京都芸術センター フリースペース
登壇者:山城知佳子(映像作家、アーティスト)
門脇耕三(建築家、建築学者)
永田宙郷(プランナー、デザインディレクター)
モデレーター:山崎伸吾(工芸ディレクター、山山主宰)
川勝真一(建築キュレーター、CoAKディレクター)
山本麻友美(CP Lab.ディレクター)
司会:峯恵子(CP Lab. 特任プログラムディレクター)
1. 山城知佳子(映像作家、アーティスト)――作品の広がりとともに変化する「協働」
ゲストトーク1人目は、山城知佳子さん(映像作家、アーティスト)。映像、写真、パフォーマンスを通して、沖縄の歴史、政治、文化を視覚的に探求する作品づくりを行っています。
今回は、一人で撮影・出演・制作していた初期から、作品の規模や表現領域が広がるにつれて、多様な人と協働し、制作するようになった過程を紹介。2016年の《土の人》、2021年の《リフレーミング》、そして2025年の《リコーリング(ス)》と現在制作中のシアトリカル・バージョンへ。協働のスケールが変化していく流れをたどっていきます。
山城:私は映像作品をつくっていますが、美術館で発表した作品を再編集して映画版にしたり、映像作品を舞台表現につくり替えたりと、発表の仕方はその都度変わります。去年、アーティゾン美術館で発表した新作《リコーリング(ス)》も、シアトリカル・バージョンとして今年10月には東京でも発表します。
このように発表する場所が変わると、協働する相手も変わりますし、ジャンルごとに仕組みや作法がまったく変わります。美術館なら美術館の作法ややり方、ルールがあるし、舞台になると、それがまたガラリと変わる。私自身もそうした違いを経験したばかりで、まだ身についていないんですけれど、その中で学びながらやっています。

では、山城さんの作品づくりにおける「協働」は、どのように変化してきたのでしょうか。
山城:大学を卒業して映像を撮り始めた頃は、一人で作品をつくっていました。自分で脚本を書き、録画ボタンを押し、自分が出演して、自分で編集する。映像作品って、一人でも全然つくれるんです。
そこから、どうして共同制作に向かっていったのか。私は共同作業をしたいから作品をつくるというより、まず作品のイメージがあって、その規模で実現しようとすると「私一人ではもう無理だ」となる。そこから人に相談して、だんだん助けてくれる人が増えていった、という流れです。
転機の一つとなったのが、2016年に制作した《土の人》。沖縄と韓国・済州島の米軍基地問題をテーマに、沖縄県の伊江島と済州島を行き来しながら撮影した作品です。

山城:当時、制作に関わったのは私を含めて3人。撮影の内容を考えながら、制作進行も自分たちでやっていたので、すごく大変でした。地域の人たちにも協力を呼びかけ、エキストラ集めから弁当の手配、ロケ地への移動など。制作にはさまざまな仕事が発生しますが、本来なら「制作」というチームがいれば分業できるんですけど、当時の私たちにはまだそういうチームがありませんでした。
撮影では、高い撮影技術を持つ方にもサポートしてもらうようになりました。私ができないときにはカメラを任せる。でも、「これは、私の身体を通して撮らないといけない」と思う場面では、私自身がカメラを持って、隣でフォーカスを合わせてもらう。そんな風に、少しずつ撮影現場に人が増えていきました。

2021年発表の《リフレーミング》では、作品の規模が大きくなる一方、山城さん自身も小さな子どもを抱えながら制作に向き合っていました。そこで、「作品の内容を考えること」に集中するため、それ以外の仕事を人に委ねていくようになります。
山城:当時、子どもが2歳で、撮影にどう向き合えばいいのかを考えたときに、「作品の内容を考えるのは私。それ以外はお願いしていこう」と決めました。まず必要だったのが、子どものケアをしてくれる人です。撮影中も準備中も友人に預かってもらい、2人体制でお願いしました。自分の撮影を成功させるためにはどうしたらいいかを考えて、必要な役割や仕事をつくっていった、という感じです。
また、撮影監督や音響デザイン、美術装飾、編集なども、それぞれの専門家へ委ねるようになりました。すると、協働を通して山城さん自身のイメージを超える表現も生まれていきます。
山城:山を削ることで起こる自然災害を表現するため、濁流のような水を人工的につくって撮影する難しいシーンがありました。私にはもうアイデアがなくて、「どうすればいいですか」と相談したら、撮影監督が自ら水の中に入って、「こうやったらいいんだよ」と撮影方法を見せてくれたんです。ほかにも、サウンドデザイナーが録音用のマイクを自作するなど、私には想像できない方法が生まれていきました。映像だけではなく、音を含めた空間そのものを設計できるようになっていきました。
一方、専門家とは異なる形で制作に加わったのが、リサーチ先で出会った地域の人たちですね。鉱山の裾野に長く暮らす自治会長さんから、かつての山や地域の話を聞き、それが作品のストーリーになっていきました。リサーチで出会った方々には、フィクションの中に「自分役」として出演していただくこともあります。彼らの普段の生活そのものを作品に映し込んでいきたいんです。

《リフレーミング》は2021年、東京都写真美術館での個展「山城知佳子 リフレーミング」で発表されました。新作発表だけでなく、過去作も含め、展示室内を回遊しながら作品を体験する構成を採用し、キュレーターや設営業者とともに会場づくりを行っていったそうです。
山城:この展覧会では、「Creative Track」講師陣の一人でもあるキュレーターの岡村恵子さんと一緒に展示空間をつくっていきました。この経験を経て、昨年、アーティゾン美術館の展覧会(「山城知佳子×志賀理江子 漂着」展)で新作の《リコーリング(ス)》を発表した際には、協働の規模がさらに大きくなっていきました。

2026–27年、石橋財団アーティゾン美術館
撮影 畠山直哉

2026–27年、石橋財団アーティゾン美術館
撮影 畠山直哉
山城:《リコーリング(ス)》の展示では会場も広くなり、もう私の力量を超えていたので、建築コレクティブ・GROUPに初めて会場構成や設計をお願いしました。123枚のテキスタイルを使ったインスタレーションには照明デザイナーが入り、映像のプログラミングや音響にも、それぞれ専門家が加わりました。
私自身が映像編集にかかりきりで会場を細かく見られないときには、制作プロダクションに「作家代行」として現場の指揮までお願いしました。完成したインスタレーションの記録写真は、写真家の畠山直哉さんに撮っていただいています。
現在制作しているシアトリカル・バージョンでは、美術展で協働してつくったものを、今度は舞台という異なるジャンルで作品として立ち上げようとしています。そこでも、自分にできない部分はプロフェッショナルに委ねながら、作品の意図を伝え、さらにその意図を超えたアプローチを経て、一つの作品をつくることに挑戦しています。
たった一人での制作から、ジャンルを超えた協働へ。作品の規模や表現領域が広がるにつれて、協働する人の数や専門性も増えていきました。山城さんは、そうした多くの人と一つの作品をつくるうえで大切なのが、「巻き込み力」だと話します。
山城:もう、やりたいことは尽きないんです。その実現を絶対にしたいという欲望が強くて。そのためには皆さんの力を借りたい。だから、つねに頭を下げて相談しています。
相手の話を聞き、相談する。そして何より、自分自身が「何をやりたいのか」を明確にする。「これを絶対につくりたいので、皆さんの力を貸してください」と伝えていく。それが、私にとっての「巻き込み力」なのかなと思います。

2. 門脇耕三(建築家、建築学者)――「ごちゃごちゃ」から生まれる協働
ゲストトーク2人目は、門脇耕三さん(建築家、建築学者)。建築構法を専門としながら、建築批評や建築設計などの活動を行っています。また、明治大学や東京藝術大学で教鞭をとり、学生たちとともに研究や協働にも取り組みます。
建築は一人ではつくることができず、協業や友人関係、中間支援など、さまざまな関係が「ごちゃごちゃ」になりながら形になっていく――。今回は、門脇さんが示したそんな協働観を、二つの実践から紹介します。

異なる専門性を持つ人と協働することで、当初は想定していなかった方向へプロジェクトが動き出すことがあります。門脇さんがその一例として紹介したのが、キュレーターを務めたヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館での展示「ふるまいの連鎖 エレメントの軌跡」に関連した一連の取り組みです。
門脇:2021年のヴェネチア・ビエンナーレで日本館をキュレーションするにあたって、建築家だけではなく、デザイナーの長嶋りかこさんにもチームに入ってもらいました。最初にお願いしたときは、まだ何も決まっていなかったんです。ただ、「建築展なので、何か大きいものをつくりたいんですよね」という話はしていました。模型や図面を置くだけではなく、空間を体験できるような、建築的なものをつくりたい、と。
その打ち合わせで長嶋さんから言われたのが、「あなたたち建築関係者は、大きいものをつくると言うけれど、ごみのことをどう考えているんですか?」という言葉です。実は、それまで僕はごみのことを深く考えたことがなかった。でも、長嶋さんの言葉でやるべきことが定まったんですね。つまり、半年間の展覧会が終わった後に、ごみを出さない展覧会にしようと決めました。
では、どうすれば「ごみを出さない展覧会」にできるのか。そこで門脇さんたちが目をつけたのが、解体される住宅でした。
門脇:日本では、住宅の総戸数の13%以上が空き家と言われています。僕が暮らす街でも、空き家がどんどん壊されています。
解体する住宅は、そのままならごみになります。「だったら、その住宅をもらって展示すればいいんじゃないか」と考えて、これから壊される予定の住宅を分解してイタリアへ運び、現地でもう一度組み立てることにしました。
展示に使ったのは、当時僕が住んでいた家の向かいにあった〈高見澤邸〉という、ごく普通の木造長屋です。この家に「第二の人生を謳歌してもらう」ことを展覧会のねらいにして、プランを練っていきました。


門脇:解体した家を、単なる「材料」として使うだけではもったいないので、もともとのかたちをある程度は残したまま、それを別のやり方で使う展示にしようと考えました。そこで、現地でもういちど組み立てられるように、分解したすべての部材一つひとつにQRコードを貼り、家のどこに、何のために使われていた部材なのかがわかるようにしました。また、痕跡調査を行い、過去の増改築によって、この家がどのように変化してきたのかも調べました。
ヴェネチアでは、日本から運んだ部材で住宅を再構成し、古い部材から順に展示空間へ並べていきました。すると、もともとは紙と木でつくられていた家に、時代が進むにつれて鉄やアルミが入ってくる。一軒のごく普通の住宅をたどることで、日本の産業の変遷まで見えてきたんです。


こうしてヴェネチアへ渡った〈高見澤邸〉は、完成した展示物として固定されたわけではありませんでした。〈高見澤邸〉が改修され続けてきたように、会期中にも手を加えながら、姿を変え続ける展覧会として展開していきます。
門脇:展示の一環として、日本館のピロティを工房として利用できるように整備してあったので、僕たちも現地へ行って、来場者がいるすぐ横でイタリアの職人さんたちと一緒に手を動かしました。展示で余った部材を使ってスツールをつくり、会場で販売したり、手を動かしているうちに思いついたものをつくって展示空間に持ち込んだり。展覧会そのものが会期中にも、どんどん変わっていったんです。
さらに会期終了後、〈高見澤邸〉の「第二の人生」は、思いがけない場所へと続き、新たな協働につながっていきました。
門脇:展覧会が終わってから、「これをヴェネチアで捨てたら、日本からごみを持ってきただけになってしまう」と気づいてしまったんです。それで、ヴェネチア・ビエンナーレに参加した他国のキュレーターたちとのミーティングで相談してみたら、ノルウェー出身のフィリピン館のキュレーターが「オスロに持ってきたら」と言ってくれました。そして、余った部材は、オスロにある団地内の公民館を増築するプロジェクトで、また新しい使われ方をすることになりました。
世田谷からヴェネチア、そしてノルウェーへ。さまざまな人々との出会いを通じて、私的な住宅が、公共建築になる。〈高見澤邸〉の第二の人生を通して、こういう建築のつくり方もできるんだ、と僕自身も新たな気づきがありました。
続いて、門脇さんが取り上げたのは、神奈川県真鶴町での協働にまつわるエピソード。ノルウェー科学技術大学(NTNU)と明治大学の建築学生たちとともに取り組む、教育と連携した実践です。
門脇:真鶴は空き家が多く、人口も減っている。人間的でいい街なんですけれど、課題も多くあります。
このリサーチでは、進めるなかで目的を発見することと、コミュニティに根付いた助けあいの精神をつくること、この2つに活動をつなげることを意識しています。最初から目的が決まっているわけではないので、まずは学生たちと街で「遊ぶ」ことを重視しました。角打ち(お酒が飲める酒屋)で出会った人たちと仲良くなって一緒に歌ったり、DJセットを持ち込んでパーティをしたりするうちに、輪が広がっていきました。

門脇:住民と仲良くなってくると、最近店主が亡くなって閉店した精肉店について、「ここをもう一回あけたい」と相談されました。もともと、住民がお肉やお惣菜を買うついでに、井戸端話をするような楽しい場所だったんです。
シャッターを開けると、物も思い出もたくさん詰まっていたので、「一回これを掃除しようか」と。呼びかけると地元の方々が集まってくれて、みんなで掃除をしました。きれいになった後は、僕たちが町について調べたことを展示しました。すると、今度は住民の方々が場を引き継いで、夜にBARを開いたりするようになりました。
一つの活動から、また次の活動が生まれていく。真鶴の精肉店での展示は、さらに思いがけない展開へとつながりました。
門脇:その展覧会に来てくれた町の人に、「町に何が欲しい?」と聞いたんです。真鶴は温泉が出ないんですが、漁師さんもいるし、ダイビングセンターもあって、海で体が冷える人がいる。そこで「サウナが欲しい」という話になったんです。参加していたノルウェーの学生たちもサウナが身近だから「サウナ、いいね」と。それで、実際につくることになりました。完成したサウナは漁協の協力で港に置けることになり、800kgもあるサウナを大移動させるために、最後はみんなで持ち上げて運びました。


門脇:その後、大学のスタジオで真鶴で何が起こったのかを学生たちと整理して、真鶴の街でも議論しました。展示なのか、協働なのか、つくることなのか。そういうものが全部ごちゃごちゃで、しかも全部つながっているんですよね。
ヴェネチアの日本館でやったことも同じです。全部がつながっているなかで、何がプロジェクトの主題なのかもよくわからない。僕はそんなかたちで、いろいろな取り組みをしています。

登壇者プロフィール
山城知佳子(やましろ・ちかこ)
映像作家、アーティスト。東京藝術大学大学院映像研究科メディア映像専攻教授。映像、写真、パフォーマンスを通して、沖縄の歴史や文化を起点に、東アジアの歴史や記憶、アイデンティティ、他者の経験の継承を主題に制作を行う。
門脇耕三(かどわき・こうぞう)
建築家、建築学者。明治大学教授、アソシエイツパートナー。博士(工学)。
2012年に建築設計事務所アソシエイツを設立。現在、明治大学出版会編集委員長、東京藝術大学非常勤講師を兼務。建築構法を専門としながら、建築批評や建築設計などの活動も行う。
永田宙郷(ながた・おきさと)
金沢21世紀美術館、デザインコンサルティング会社を経て、(株)TIMELESSを設立。「“ものづくり"をつくる」を掲げ、伝統工芸から先端産業まで幅広く事業と商品の開発に関わる。主な活動に『ててて商談会』『DESIGNART』等がある。
Creative Track紹介

「Creative Track」は、文化芸術の現場を支える人材が、知識や実践を学び、専門性やネットワークを広げるための講座プログラムです。2026年10月~2027年2月には、工芸、建築、メディア芸術、基礎の4つの分野からなる計24回の講座を開講。多彩な講師を迎え、創造分野における「協働」について多角的なアプローチから学びを深めます。
また、CP Lab.では、講座のほか、モデル事業や公募事業、ナレッジシェア(アプリ開発)、勉強会などを展開。「Creative Track」とも連動させつつ、学びから実践へとつながるさまざまな取り組みを行っていきます。
「今回の講座はそれぞれ単発受講も可能ですが、工芸、建築、メディア芸術の分野は6回の連続受講が可能です(現在、連続受講の申し込みは終了しています。単発受講のみお申し込み可能です[10月13日時点])。連続受講の方は、別の講座を2回まで無料で受講できたり、連続受講者だけを対象とした講師との交流の機会やフィードバック等も行います。また、面白いアイデアが出てきたら、来年度以降、実現に向けプロジェクト化も考えています」
山本麻友美(CP Lab.ディレクター)
企画・メンター
工芸分野:山崎伸吾(工芸ディレクター、山山主宰)
建築分野:川勝真一(建築キュレーター、CoAKディレクター)
メディア芸術分野/基礎分野:山本麻友美(CP Lab.ディレクター)